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2024.11.12

M&Aコラム

高級時計業界におけるM&Aの事例

17世紀後半から、スイスの主要な産業となった時計工業。世界三大高級時計はスイスブランドで占められており、高級時計業界はスイスの名門・老舗ブランドが顔を揃えます。高級時計業界で揺るがぬ地位を築いたスイスブランドですが、M&Aと無縁ではありません。今回は、高級時計業界におけるM&Aの事例をご紹介します。

 

■シナジー効果を期待したM&A事例

M&Aを積極的に活用し、高級時計業界で幅を利かせることに成功した巨大コングロマリットのLVMHモエヘネシー・ルイヴィトン(LVMH)グループ。LVMHグループといえば、2019年に発表して2021年に完了した、米宝飾品大手ティファニーの買収を思い浮かべる方もいらっしゃるでしょう。LVMHグループは、シナジー効果を期待してM&Aを実施することで知られています。

 

・LVMHグループの時計部門

フランスを本拠地にするLVMHグループは、ルイヴィトンと酒造メーカーのモエヘネシーの合併により、1987年に設立されました。こうして、ケリング、リシュモンと並ぶ、ファッション業界の巨大コングロマリットとなったLVMHグループ。現在70以上ものブランドを保有しており、「ウォッチ&ジュエリー」はLVMHグループの6つの事業部門のうちの1つです。 

LVMHグループのウォッチ&ジュエリー部門が設立されたのは、1999年のことでした。現在、LVMHグループ傘下にある主な時計ブランドはウブロ、タグ・ホイヤー、ゼニス、ブルガリ、ルイヴィトン、ショーメの6つです。モルガン・スタンレーが2024年2月に発表したスイス時計業界の最新調査レポートによると、2023年の推定売上高ランキングトップ20では、ウブロが12位、タグ・ホイヤーが15位、ブルガリが19位にランクインしていました。

 

・LVMHグループが行ったM&Aの好例

LVMHグループのウォッチ&ジュエリー部門きっての稼ぎ頭であるウブロ。1979年に、イタリア人カルロ・クロッコによって創業されたスイスブランドのウブロは、2008年にLVMHグループの傘下に入りました。ウブロは、M&AでLVMHグループ傘下に入った同年にサッカー欧州選手権で、さらに2010年には、フェラーリとのパートナーシップを結ぶことに。

2014年には、FIFAワールドカップの公式ウォッチ・公式タイムキーパーに就任します。また、イギリス・プレミアリーグの試合で登場するラウンドボードにはウブロのロゴが入っており、世界中のスポーツファンを魅了しています。

もう一つ、LVMHグループ傘下になり、躍進を遂げたブランドがあります。1884年、イタリアで創業した高級宝飾品ブランドのブルガリ。1975年にはブランド初の腕時計を制作します。そんな老舗ブランドであるブルガリが、M&AによりLVMHグループ傘下になったのは、2011年のことでした。ロレックスやオメガなど、スイスブランドが大きなシェアを占める高級時計業界で、トップ20内にランクインしているブルガリは、大健闘しています。これらの例は、M&Aのシナジー効果が得られた結果だと言えるでしょう。

 

■王者ロレックスのM&A

2022年、高級時計・宝飾品業界におけるM&A案件は、全世界でわずか20件でした。ところが、2023年には、高級時計業界のM&Aに関連したビッグニュースが飛び込みます。

 

・高級時計業界に君臨するロレックス

スイスの高級時計業界は、年間売上を公表していません。しかしながら、モルガン・スタンレーとリュクスコンサルトが毎年発表する調査レポートでは、ロレックスの首位独走ぶりが見て取れます。

2024年の報告によると、スイス時計業界の独立企業であるロレックスは、2023年にブランド初の売り上げ100億ドル超え(約101億スイスフラン、約115億ドル)を達成しました。2022年のロレックスの推定売上高は93億スイスフランですから、前年比11%の増加です。推定売上高ランキングの2位以下に、圧倒的大差をつけるロレックスは、高級時計業界の王者だといえます。

年間売上100億スイスフランを超えたロレックスは、これで世界的なラグジュアリーブランドであるグッチと並ぶブランドとなりました。時計だけではなく、服飾や香水などの部門展開をするグッチに比べて、ロレックスは時計のみ。この事実だけでも、ロレックスの凄さが理解できるのではないでしょうか。

 

・ロレックスのブヘラ買収

絶好調を更新し続ける王者ロレックスですが、2023年8月には、スイス・ルツェルンに本社を置くブヘラを買収すると発表。1888年創業のブヘラは、時計の小売業者として事業をスタートします。その後、自社ブランドの時計製造にも乗り出したブヘラ。時計の小売業者が製造に参入するのは、史上初の試みでした。

自社ブランドの時計をはじめ、ロレックスやその他競合メーカーの時計を販売するブヘラ。実じつは、事業承継問題ゆえに、ロレックスへの売却を検討せざるを得なかったといいます。このM&Aにより、世界に100店舗以上あるブヘラの販売網がロレックスのものとなり、競合メーカーの販売情報を入手しやすくなります。後継者がいないため、廃業せざるを得ない会社は、日本だけではなく世界中で増えているようです。事業承継M&Aは、事業承継問題を解決する手段となっています。

 

■まとめ

高級時計業界でも一般的に実施されているM&A。事業収益性を求めて行われるM&Aもありますが、LVMHグループのようにシナジー効果への期待や、ロレックスとブヘラのように事業承継問題を解決するために行われるM&Aもあります。いずれにしても、高級時計業界で行われるM&Aは、成功している案件が多いと言いえるでしょう。

最後に

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